ビジネスで成功を収める、利益を出すことを考えるとき、そのための概念は、他の誰かより一歩前に出ている必要があります。

平たく言えば、競合他社に勝利しなくてはならず、またその勝ち方にも様々な形があります。

まずは圧倒的な力を持っての圧勝。どの相手でも、どの国に行っても必ず勝てる。これが理想ではありますが、我々中小企業では、なかなかそこまでの競争力を持っている企業は少ないのが現実です。

何とか勝ったとしてもほとんど余力が残っていない状態、利益も僅か。きれいごとではなくビジネスは利益を上げてなんぼの世界ですから、何のために苦労したのか分からないのでは、ビジネスをしている意味はないに等しいかもしれません。

では、圧倒的な力がないのであれば、海外でのビジネスは諦めたほうが良いのか。そんなことはありません。ただ発想の転換、違った角度から物事を再評価する柔軟な視線が必要になります。それこそ、「目利きの考えが一歩前に出ている」ということです。

私は基本的には海外に在住しておりますが、定期的に日本に帰国しております。そのたびに日本の “痒い所まで手が届く”、細々とした日本的なビジネスに驚きの声を上げてしまいます。

たとえば、郵便物は配送日時の指定が可能で、日本の津々浦々まで、紛失せずにどんな高価な物でも届けることができます。これは日本に住んでいる人たちには 「なんだそんなことは当たり前ではないか」 と、一言で片づけられてしまうかもしれませんが、外国に住んでいる人間には、信じられないサービスと映ります。日本では当たり前でも、海外からの評価は大いに異なる。この点を理解しなくてはいけません。

オーストラリアでは電車が坂を登れない!?

まだピンとこない人もいらっしゃると思いますので、日本ではありえない、私が住んでいるオーストラリアで実際に起こった事件を一つ話してみましょう。

オーストラリア随一の大都市シドニーでは、ずさんな都市計画が今問題になっています。リーマンショック以前のオーストラリアは、建国史上最高の大好景気。つまりバブルで、人口がたかだか2000万人しかいないオーストラリアは、国内の労働者不足を移民によって解消しようという安易な発想を、政策として奨励してきました。移民の受け入れは構わないですが、それに必要なインフラが全く整っていません。

シドニーは企業も住居も、半径20キロ圏内に集中している、都市というよりも、ある意味小さな街です。そこに移民が大量に押し寄せ、あれよあれよと言う間に、物価が上昇。住宅価格も上昇。一般人はとても手が出なくなり、さらに奥地へと居住スペースを求めて移動しました。

そこで問題になったのは、公共の交通機関が全くないこと。しかも勤め先はほとんどがシドニー中心街。北部と中心街はたった一本の細長い橋とトンネルでつながっているだけで、朝夕の時間帯の道路は、当然ものすごい渋滞を生み出してしまいました。

これを緩和するのを目的に鉄道を開通させることになりましたが、この計画が表に出た時には、私は一抹の不安を感じました。今までも散々経験してきましたが、オーストラリアで期日通りに工事ができたためしがありません。案の定、工期は伸びに伸び、予算も大幅にオーバー。皆が存在すら忘れていた頃にやっと開通。

ここまではオーストラリアではよくある話で、許容範囲内ですが、驚いたのがこの後。この地区は高低差が激しく、場所によっては勾配の角度がきつい所も存在します。でもどんな状況であれ、仕事を請け負えばきちんと通すのが当たり前。のはずですが・・・

電車は勾配が厳しくて、車輪が空回り、坂を登れませんでした!!

これにはさすがにマスコミも飛びつき、犯人探しが始まりました。関係者は (1)時刻表があってないようなものの代表、鉄道局。(2)オーストラリア名物、「ずぼらな建設は任せておけ」 の建設業者。(3)無策なインフラなら お手のもの、いつも丸投げ政府。

この3者がお互いに罵りあい、責任転嫁を始めました。鉄道局は、予算を大幅にオーバーしたのにも関わらずずぼらな工事しかできなかった建設業者を罵り、建設業者は、無理な予算を押し付けられたと政府を批判。政府は、十分な予算と追加予算まで割いたと主張し、鉄道局のずさんな計画が問題と指摘。泥仕合のゴングが鳴らされました。開通後の今でも責任の所在は明らかにされていません。では、この区間はその後どうなったかと言いますと・・・

無事に電車が走っています。手直しの工事が行われたのか?

いやいや。

シドニーの鉄道局は数年前に、老朽化した車両を一気に新型へ変更しました。新型車両は馬力不足で、この勾配を登れませんでしたが、試しに旧型車両を走らせたところ、登りきることができました。それ以後、廃棄処分するはずだった旧型車両を引っ張り出し、最近導入された新型車両が走るまでのつなぎにしていました。

普通にやれば勝てる!

これがオーストラリアの現状です。

こんな会社(鉄道局は完全民営されています) であっても十分利益を出して、会社経営を続けることができます。つまり言葉は悪いのですが、総じて仕事のクオリティーが圧倒的に低いのです。いや、低いという言い方は語弊があるかもしれません。

オーストラリアは世界の国々の中であれば、ましな分類に振り分けられると思います。ただ日本はすべてにおいて消費者の目が非常に厳しく、また求めているものは高いので、それと比べてしまうと、オーストラリアに限らず、大半の国は低く感じてしまうのでしょう。

ここまで書けば 「なるほど」 と理解していただけたかもしれません。つまり今日本で皆様がやられていることを、そのまま同じようにするだけで、海外では絶賛、賞賛の的になる可能性があります。

もちろん海外の企業も、日本企業と同等のクオリティーを出すことは可能かもしれません。ただ、その場合には通常コストの3倍は掛かると思います。費用対効果の面からでも、我々には十分勝算があると考えられます。また純粋な業務に関して言えば、従来通りのやり方で、十分利益が確保できます。しかも市場を独占する大手企業は存在しない。

どうです?かなり勇気が出てきたのではないでしょうか。

もちろん、日本的なすべてのビジネスに可能性があるわけではありません。良い商材であったとしても、ニーズに合わずオーバースペックである可能性も大いにあります。その見極め、目利きが成功の第一歩と言えるでしょう。