ご存じの通り日本は周りを海に囲まれており、古来水産資源に恵まれ、日本人に貴重なタンパク資源を与えてくれる、食卓には切っても切れない資源です。
かつては日本の漁船が世界中の海に繰り出して、世界一の漁獲量を誇っていました。ただ各国が自国の水産資源保護を目的とし、領海12海里や排他的経済水域(EEZ)200海里などを設定し、従来の様な自由な漁獲が出来なくなってしまいました。
豊かな漁場での漁獲で不可能になってから、残念ながら漁獲量がぐっと減ってしまい、今日本の漁労は衰退の一歩をたどっています。 もちろん漁獲量が減ったのは、各国のEEZ設定も大きな理由ですが、気候の変化や乱獲などの影響も否定は出来ません。
無尽蔵に思えた自然から魚を取るのではなく、ある程度人間の管理下で効率的に漁獲を行う方法、それが養殖になります。
2020年代、日本の食卓に欠かせない魚介類は、天然資源の限界と共に「獲る漁業」から「育てる漁業」へと大きな転換期を迎えています。その中心にあるのが養殖業になります。
世界的な水産物需要の高まりに応える一方で、日本の養殖産業は今、技術革新と持続可能性の狭間で大きな変化に直面しています。
・スマート養殖で進化する漁業現場:
かつて“勘と経験”に頼っていた養殖も、今やAI・IoT技術によるスマート化が急速に進んでいます。
たとえば、海面養殖では水温や溶存酸素、魚の摂餌行動をリアルタイムで監視し、自動給餌や病気の早期検出が可能に。人手不足や高齢化が進む地方の漁業現場において、こうした技術導入は「省力化」と「高付加価値化」の両輪として期待されています。
さらに近年では、陸上でのサーモン養殖も本格化。海の環境変化に左右されず、都市近郊での生産・販売が可能になることで、「地産地消」×「高効率」という新しいビジネスモデルが浮上しています
・避けられないサステナビリティとの向き合い:
一方で、養殖が拡大すればするほど避けて通れないのが環境負荷の問題です。過密養殖による水質悪化、赤潮、海底汚染──持続可能な成長を目指すには、適正な管理と法規制の整備が不可欠になります。
また、養殖魚の餌に用いられる魚粉・魚油の原料は天然魚。持続可能性の観点から、植物性たんぱく質や昆虫原料への転換も急務の対象事項になります。
新たな育成方法や技術開発&導入がキーポイントとなっております。魚の餌メーカーやスタートアップ企業、それに大学などの教育機関が参入し、まさに“水産フィードテック”と呼ばれる新たな市場が形成されつつあります。
・日本の魚”は世界を目指せるか?
農林水産省も力を入れているのが日本の養殖業の輸出戦略になります。高品質な日本産魚は、アジアを中心に世界各国で高い評価を受けております。ただまだまだ定供給体制と価格競争力、認証制度(ASC等)への対応は、十分だと言えない現状があります。
政府も「水産物輸出1兆円」の目標を掲げ、民間との連携を強化しております。すでに一部のブリやサーモンは、香港・シンガポール・北米市場に進出し、新しい販路を確保しております。更なる販路開拓を目指すのであれば、技術・ブランド・物流の三位一体の体制を構築がカギになります。
かつて“天然の恵み”に頼ってきた日本の水産業は、衰退し、それだけでは漁業が成り立たなくなっております。テクノロジーとサステナビリティの戦略産業を取り入れ、「育てる漁業」は、日本の食を守るだけでなく、世界に挑む武器にもなりえると言えます。