近年、日本国内の将来性を危惧し、海外に活路を見出そうと、海外でのビジネス展開を考えている企業が増加しています。市場の将来性やポテンシャルを海外に期待するからです。ただ残念ながら、日本企業が海外に進出しても、失敗し撤退する企業が多いことも事実です。

100%成功するビジネスはこの世には存在しませんが、日本企業は海外進出において意外と苦戦を強いられています。私は常々、日本の技術、サービスなどのビジネスモデルは海外で 「成功する・受け入れられる」 と話してきました。日本には海外にはない素晴らしい武器 (商材) があります。中国などのアジア諸国は、日本で流行っているもの、話題になっているものを取り入れ、ビジネスをコピーして成功を収めていますが、同じ商材を扱って、オリジナルの日本人が苦戦をし、コピーした他の国の人たちが成功する。なぜこれだけの差が出るのでしょうか。

その答えは、現地への適応能力にあると考えられます。

日本人に限らず、世界中に広がる大小様々な国々は独自の文化や考え方を持っています。これはこれで、アイデンティティーを守るのは大事なことですが、「郷に入ったら郷に従え」 のことわざがあるように、ビジネスのうえでは、自分たちの認識を進出したい国の認識に合わせる必要性があります。このへんの環境適応能力と柔軟さの欠如が、日本企業の苦戦につながっています。

「せっかく海外で大ヒットできる商材があるのに、それを活かしきれていない!!」 これが私の、日本企業への心境です。もともとのポテンシャルは抜群なので、ほんのちょっと思考を変えられれば、ビジネスチャンス&成功の確率がぐんと増えます。

では具体的に、オーストラリアと日本のビジネスにおける認識はどのように違い、日本企業が海外進出する際に思考をどのように変えたら良いのでしょうか。

情報はただではない

インターネットの普及に伴い、一昔前に比べて、情報を手に入れるのが飛躍的に容易になりました。地球の裏側の情報も部屋に座っていながらリアルタイムで手に入れられるのも、インターネット普及のおかげです。ただ、これはあくまでも無料のツールから手に入る情報であって、本当にビジネスをするために必要な、コアになるべき情報は、そんな簡単には手に入れることはできません。

私は職業柄、オーストラリアの商法、法律など様々な方面の情報を知っています。これらは、自ら数々の失敗を経験して血肉となった情報、つまり知識です。加えて、社内独自に調査も行い、その調査の信憑性や比較対象の情報をリサーチ専門の企業から購入する場合もあります。他にも、お客様のご依頼により特殊な専門性が必要と判断される項目については、専門家にアドバイスを求める可能性もあります。その全てに料金が発生します。料金を支払わなければ正確な情報は手に入りません。

外国人は 「情報=お金」 という認識があり、専門家と直接話すだけで時間給が加算されます。ただ座っているだけでも時間給が取られます (その高額な請求額に賛否両論はありますが、「情報にはそれ相当の対価を支払う」 必要性はみんな理解しています)。

かたや日本人はどうかというと、残念ながら 「情報はただ」 と考えがちの人が、まだまだ多いのが現状です。冒頭でもお伝えしていますが、近年日本からの問い合わせが急増しています。ローカルな位置づけだったオーストラリアに目を向けていただけるのは非常に嬉しいのですが、情報の価値を理解していただくことに苦戦をしています。

たとえば、「このビジネスを立ち上げたい。どのくらいの費用が掛かるのか見積りを出してくれ」 そんな依頼を受けましたが、ビジネスが特殊性を含んでいると、それをオーストラリアで立ち上げるには各種様々なライセンスを取得する必要があります。「ビジネスを行ううえで必要なライセンスは何か」 「申請料金は」 「ライセンス取得に必要な条件は」 などなど。「見積りを下さい」 と気軽に言われても、それを出すに当たって、各種団体への問い合わせはもちろんのこと、取得について熟知している専門家のアドバイスも仰ぐ必要があります。
 
正確な見積り金額をはじき出すには正確な情報が必須。それを収集するには膨大な労力と時間と、お金がかかります。私は、見積り金額をお客様に提出する前に、まずはこのことをきちんと説明し、基本の契約をお願いしています。たいていの外国人のお客様はすんなりと了承されますが、これが日本人となると、「何で見積りを出してもらうのに料金が発生するのか」 となってしまいます。これがもしオーストラリア現地企業であれば、「あっそう。払えないのであればこれで、サヨナラ」 その時点で全てが終了です。
 
オーストラリアでは、何らかの依頼を行う場合には、ちょっとした問い合わせでも料金が発生します。まず料金の支払いありき。支払いをしないと何も始まりません。約束手形などの文化がある日本からすれば驚くべきことですが (逆に世界から見れば約束手形の存在自体が理解不能でしょう)、オーストラリアでは 「最初に料金を貰っておかなければ、とりっぱぐれをしてしまう」 と考えるのが当たり前です。「信用」 という文化が根付いている日本では成り立つことでも、こちらではそのままは成り立たないのは、オーストラリアが多民族国家で様々な人種が入り混じっており、根本的な文化の違いがあるからだと言えます。
 
私の社内でも、現地や諸外国の企業同様にドライに対応する方法も意見として挙がってはいますが、人生の半分以上海外で生活をしているとは言え、私もやはり根っこは日本人。しかも同じ日本人が困っているとなると、どうしても判断が甘くなります。オーストラリアに進出したい方がこちらの風習に適応するやり方を模索されるのと同様に、私自身、明確な線引きをどうするか模索している今日この頃です。