日本の常識は世界の非常識、また逆に世界の常識は、日本では的外れ。ビジネス界に限らず、日本と世界との考え方のギャップは、実の所意外と多く存在します。医療目的とはいえ、麻薬もそのギャップの一つだと言えます。
現在の日本ではタブー視される薬物も、その歴史の紐を説けば、江戸時代の医者である花岡青洲が、麻薬の一種であるマンダラゲと言う植物を使用し、日本で最初の全身麻酔で乳がんの患者の手術を行っています。世界までその範囲を広げれば、15世紀頃に南米で一大帝国を築いたインカ帝国では、麻薬の原料となるコカを使用し、驚くべきことに、現在でも高度な技術と器具を要する脳外科手術を行っていました。一説によれば、その脳外科手術の成功率は高く60~70%くらいを誇っていたようです。マイナスイメージの強い麻薬の原料コカですが、このコカが古代インカ帝国で行われていた脳外科手術の成功率を上げていた大きな理由の一つだと考えられています。
我々が生まれる何百年も前から麻薬は医療目的で使われており、実は身近な存在でもありました。まだまだ諸説議論の余地は大いにありますが、現代では化学的に作り上げられた他の薬物よりも、元来自然界に存在していた麻薬の方が人体への影響が少ないと考えられ、世界各国が医療麻薬の承認ラッシュが続いており、それと同時にこの医療麻薬はビジネスになると、世界中の企業から熱い視線が注がれています。
医療麻薬とはいえ、その成分は麻薬と何ら変わらず、オランダなどの特殊な例を除き麻薬の使用は世界中の国々で禁止されています。各国とも一番頭を悩まさせているのが、文字通り毒にも薬にもなる麻薬の取り扱い方法になります。痛みに悩まされるがん治療患者などの元に、必要な分量だけ確実に届けられるか。一連の流れは、栽培から始まり、それを生産する企業、そこから医療現場を経て患者に渡りますが、発給した医療麻薬は横道にそれずに今現在どこにあるのかを一目瞭然で把握する。この運営管理システムをめぐって、大手、ベンチャー入り混じって、ビジネスの熱い商戦となっています。
IT界の最大手であるマイクロソフト社は、昨年「Microsoft Health and Human Services Pod」と言う新部門を設立し、ITベンチャー企業の「KIND Financial」と共同で、医療麻薬の種の段階から患者に届くまでの追跡するITソフトウェアを開発、運用、管理を行うために新たに「KIND Government Solutions」を立ち上げることを発表しました。
医療麻薬を合法化したことで、麻薬関連の税収入を飛躍的に伸ばした政府は、引き続き安定した税収入を得たい思惑は当然あります。しかし、激痛と闘う患者のためと言う大義名分はあるのですが、方便とはいえ麻薬を扱う後ろめたさと、世論にもまだまだ反対意見も多いのも事実です。そこで世界的にも認知度の高いマイクロソフト社が提供する追尾システムを導入する事により、医療麻薬はクリーンで健全な運営管理を行っているアピールを世論に訴える事が可能になります。マイクロソフト社は新たな分野でビジネスポテンシャルを確保し、政府は税収入と、クリーイメージ作戦を実行出来る。両者の思惑ががっちりと一致した戦略と言えます。
オーストラリアでも医療麻薬が合法化されたことにより、多大な恩恵を受けている企業が多くあります。オーストラリアの市場規模は、多額の開発費を必要とする独自の運営管理システムを開発するには小規模すぎます。ただ、他国で開発されシステムの流用は可能なので、運営管理システム関連企業よりも、大麻栽培者のライセンスを取得した医療薬品会社や、大麻ベースに治療薬品を研究している企業がスポットライトを浴びています。
ASX(Australian Securities Exchange Limited)は、オーストラリアで唯一の証券取引所になりますが、2017年から医療大麻関連の企業が通常ではありえない株価高騰が続いています。現地でも非常に危険で制御不能とかクレージーなど、直接的な表現を用いて指摘しています。
例えばシンガポールに本拠地を構える、Stemcell United LtdはASXは上場後、医療麻薬関連を取り扱うことによって、株価をおよそ3000%アップさせました。現在ASXに上場し、医療麻薬を取り扱う企業は14社程になりますが、そのポートフォリオを確認してみますと、2017年初旬より平均でおよそ280%の株価上昇となっております。
医療麻薬ビジネスが今後どの程度発達するのか非常に未知数の部分が多く、急激な株価への反応に警告を促す指摘も多くあります。 大麻関連を取り扱っている著名人のアドバイザーに就任したとか、大麻生産者のライセンスを取得したなど、実際に「明確な数字」での実績ではなく不確定要素の高いニュースに、過剰に反応している感は否めません。ただ既に医療麻薬を解禁した国々で、麻薬関連の税収入が格段に増加した部分を考えますと、政府が税収入を増やしたいのは、古今東西不変の物ですから、これからも推進していく事は目に見えています。
過去に例がない分だけ不鮮明なのは事実ですが、未知数な分だけビジネスポテンシャルを秘めています。今後は医療麻薬は現在の大手企業にしか参入不可能な、特定分野だけではなく、ベンチャー企業も対応できる、新規分野でのビジネスモデルも確立される可能性は大いにあると言えます。