日本では、当たり前の様にインターネット回線が光回線になっています。その通信速度に慣れ親しんでいる日本人は、オーストラリアのインターネットを利用するとかなり遅く感じてしまうでしょう。

光回線は簡単に言えば光ファイバーケーブル(光ケーブル)と呼ばれるケーブルでデータ通信を行うインターネット回線のことを指します。電話ケーブルや電源ケーブル等は、ほとんどのケーブルは金属(主に銅)で出来ていますが、光ケーブルはガラス繊維出来ているのが特徴的です。このガラス状の繊維が束となり、通信ケーブルとなったものが光ケーブルと呼ばれております。従来の銅で出来た通信ケーブルに比べて高速で、また長距離の通信が出来るのが特徴です。 
 
現在オーストラリアの主流回線は、日本ではすでに一世代前の技術で、光回線が普及する前の方法であるADSLやADSL2+がまだ主流で、電話ケーブルや電源ケーブル等は光ファイバーに比べて、データ転送速度が遅く、またデータ送信の安定性にも欠けています。

そこでオーストラリア政府は、市場の強い需要を受け、国内の脆弱なインターネット回線のインフラを整えるべく、全豪に光回線を普及させようとしています。より早く、遠くへをスローガンに、早急に従来の銅ケーブルと別れを告げる時が来たと、ナショナルブロードバンドネットワーク(NBN)計画を立ち上げ、その普及対応の為に、NBN社設置しました。NBNはその構成、規模からして、オーストラリア史上最大の国家プロジェクトと言われており、その一端に日系企業も関連しているほどです。

現在では都市部を中心にNBNが徐々に普及しておりますが、ここまでの道のりは紆余曲折。何事も万事計画どおりに進まないオーストラリアの事情を差し引いても、遠い道のりでした。私自身もかなり前からNBN計画は耳にしておりましたが、年々膨れ上がる予算と、どの政党が政権を取るかで思惑も変わる政治的要素もあり、一時は計画自体がとん挫したとの情報も聞き及びましたので、実際に計画は眉唾な物だと考えておりました。

NBNが発案されたのは2008年で、当時の与党政権だった労働党の目玉政策でした。NBNの当初の予算は150億豪ドル(日本円でおよそ1.35兆円。1ドル90円換算)でしたが、翌年の見積もり予算では、設備費を含めて430億度豪ドルが必要となり、その後この予算は374億豪ドルに縮小され、連邦政府は予算として304億豪ドルを捻出し、70億ドルを民間企業からの投資として資金を調達するとしました。

しかし、この後も全豪に張り巡らすブロードバンド計画は、二転三転します。その一番の理由が、膨大に膨れ上がる予算捻出にありました。当時の政権によりNBN会社法が議会で可決されましたが、入札金額があまりにも莫大な金額に跳ね上がり、入札中止を繰り返しの連続でした。また当初は通信、転送速度が最大で100 Mbit / sを予定しておりましたが、最終的には2013年当時の自由党のアボット政権によって、最低25Mbit / sまで速度をスペックダウンし、どうにか全豪ブロードバンド化推進の目途がつきました。

ただ問題がまだ完全に終結した訳ではありません。2020年までにはこの通信網を国内建物の90%完備すると発表されていますが、光ファイバーが開通しているのは建物の外までで、建物の中は従来通り、電話回線を利用したインターネット回線利用となっており、発足時に歌った完全光回線化、銅ケーブルに別れを告げる宣言からは、残念ながら程遠いと言わざるを得ません。また電話回線を利用する事により、どの程度データーがロストするのかも今の所はっきりとは分かっておらず、不鮮明な点でもあります。それでも政府は強気で、今後もNBNを推進する姿勢を崩してはおりません。  

政府は巨額の資金を投入したNBNに対して焦りを感じているのか、十分な通達期間もなく、各家庭が利用している、従来のADSL回線をたった4週間の通達で使用不可、強制的にNBNに変更させるなどの強引な用法も見られます。実際に私の自宅でも突然4週間後に今使用しているADSL回線は使用出来なくなる。NBN回線に切り替える様にと、たった1枚の紙きれで通知がなされたくらいです。切り替えの為には、工事を行う技術者をアレンジし、新しいプロバイダーとの契約、モデム購入など出費は伴いますが、この保証、サポートも十分だとは言えない状態です。

更に今後予断を許さないのはモバイル・ブロードバンドの存在です。現段階においてユーザー側からすれば、NBNはコスト、安定性、速度など利用するメリットはありますが、もし次世代モバイル・ブロードバンドがこれらの問題を解決し、NBNと同等とまでいかないまでも、肉薄するパフォーマンスを見せる事が出来た場合にはどうするのか?巨額の税金を投資したインすらプロジェクトだが、回収の見込みはあるのか?など問題も山積みです。

今後もオーストラリアのITインフラに関しては注意が必要だと言えます。