「水道の蛇口をひねれば、いつでも清潔な飲料水を手に入れる事が出来る」これは日本ではごくごく日常的なことですが、世界的な視点で見れば、それがいかに恵まれている状況なのかがわかります。というのも、安全な飲料水を常時手に入れられる国は世界のおよそ3割弱と言う事実があるからです。
日本は世界でも数少ない飲料に適した水を何不自由なく、安価で手に入れられる幸運な国だと言えるでしょう。空気と安全と水がタダと認識している日本人には、世界には安全な飲料水を確保するために戦争に発展する国々がある現状を、リアルなイメージとして掴みづらいかもしれません。
そんな世界の視点からオーストラリアを見ますと、比較的飲料水に恵まれている国と言えます。それでも入浴時間の制限をしている家庭も多く、また乾季には各家庭へ供給される水量が削減され、車の洗車時にホースを使用する事を禁止するなどの節水対策が行われております。
余談ですが日本とオーストラリアは二国間の間でワーキングホリデー制度が認められており、毎年多くの日本人が渡豪しております。オーストラリア生活の最初のステップとしてホームステイを選択する人も多いのですが、この入浴時間制限にまずカルチャーショックを受けると思います。我々日本人の感覚では入浴はただ単に体を洗うだけが目的ではなく、湯船に浸かってゆっくり汗を流し、ストレス解消も含まれております。ただ、海外では湯船がない住居もあり、シャワーの使用時間を5分などと制限している場合もあるので、疲れを取ると言うよりは体を洗う事にフォーカスせざるを得なくなります。
欧米人は日本人に比べて香水などを多用する文化ですが、その背景には入浴時に日本ほど水を豊富に使えず、体臭をやわらげる為に必要不可欠だからだと言えるのかもしれません。飲料水に比較的恵まれているオーストラリアでさえこの状態なので、他の諸外国、特に人口が爆発的に増加しているアジア諸国は水確保が国家の最重要課題となっております。
さて、オーストラリアの主産業の一つである農作物は、小麦、大麦、米、トウモロコシなどで、その他にも酪農品、食肉、砂糖、綿花なども高い生産量を誇っており、日本への輸出はもちろん、世界の国々へ輸出されております。ただ、近年大干ばつなどの影響もあり、水不足の厳しい状況に追い込まれ、農業を廃業する人も出てきております。
政府は外貨を稼ぐ重要な輸出品目が減る事を懸念し、ダムの建設や、海水を真水に変える大型プラント計画などを立案しておりますが、どちらも国家レベルでのインフラプロジェクトになりますので、膨大な予算が必要となります。このアイデアが立案されたのはオーストラリアが空前の好景気の時期で、冷静に考えれば実現が困難な計画ばかりなのですが、当時はオーストラリア経済は天井知らずに成長を続けると信じられておりました。言うなれば日本のバブル期に似ていた状況でした。
事実NSW州内での海水淡水化プラント計画を白紙にするとNSW州政府は発表しました。海水を淡水化するのにも膨大なエネルギーも必要とするためです。まだ他州では淡水化プロジェクトを謳っている所もありますが、近年燃油高の影響もあり、よりコストが増加する可能性も高く、今後も実現が困難な計画だと考えられます。
オーストラリアは日本のおよそ20倍の面積になりますが、人口は約2400万人と、日本のおよそ5分の1程度でしかありません。広大な国土を全てカバーするインフラ網を建設するには、予算の都合上現実的ではなく、政府も頭を悩ませている点です。私はここにビジネスチャンスがあると捉えます。例えば、電気、水道などのインフラが整っていない内陸部や僻地に対して、送電や水道管を必要とせずに、単体で水のくみ上げが出来る装置などがあれば需要が見込めると思います。おそらく大都市周辺の農家からの発注もあるでしょう。
そして、予算と利便性から安定した水源の供給が難しいのはオーストラリアだけではなく、アジア諸国や、その他の国々でも大きな課題となっております。地下水を汲み上げるポンプが設置される場所は辺境の地で、容易にサービス&メンテナンスがしづらい環境だと予想されます。地下水をくみ上げる事が可能なポンプに、配線が不必要なソーラーシステムを併設し、落雷による被害を避ける為の避雷針システムを組み込ませることで、相乗効果を生み出し、商材の価値を高めるだけではなく、複数企業の海外進出を一度に行う事も可能になります。
またオーストラリアだけではなく、アジア諸国は地下資源も豊富に産出している国も多く、鉱山の採掘所では、粉塵の洗浄、粘性の泥漿、排水に多くのエネルギーを注いでいることがあります。これらを効率良く行えるポンプや配管があれば、既存の企業と提携し、第二次サプライヤーとして、十分参入出来るチャンスがあると言えます。ただ、もちろん課題もあり、井戸水を吸い上げるには、水脈を調査する必要があり、その費用等が別途かかる可能性が予想されるでしょう。
いずれにしましても、今後こうした分野には大きなチャンスがあるのではないでしょうか。