2025年現在、オーストラリア経済にとって中国は依然として最大の貿易相手国でになります。 鉄鉱石、石炭、LNGなどの地下資源だけではなく、農産物、教育、観光──あらゆる主要産業が多かれ少なかれ中国との関係に依存してきました。
特にこの20年、オーストラリアの経済成長は、中国との経済的蜜月のお陰だと言っても過言ではないと言えます。

しかし、その関係性はは今、大きく揺らぎ始めています。特に中国では、中国国家統計局が2024年以降、都市部の若年失業率(16~24歳)の発表を一時中止していました。理由は「データ精度の改善のため」としていますが、実際には20%超という異常値が続いており、政治的なコントロールの為だと指摘されています。
特に大学卒業者が年間1000万人以上に達する中で、学歴インフレと雇用のミスマッチが深刻化しており、都市部を中心に経済的な閉塞感が広がっています。
消費マインドの冷え込みは、オーストラリアにとって看板商品である高付加価値な農産品(ワイン・牛肉など)や教育サービスへの需要を確実に押し下げています
景気減速だけではなく、その他にも、中国国内の構造問題、とりわけ若年層の高失業率や内需の停滞、さらには政治リスクの高まりが、オーストラリア企業にとって看過できない“地政学的コスト”となりつつあります。

実際、オーストラリアのワイン輸出は一時、中国の反ダンピング関税によって壊滅的な打撃を受けました。2024年に関税は撤廃されたものの、かつての勢いは戻っておりません。「失業中の若者が1本300ドルのグランジ(高級ワイン)を買うはずがない」と、業界関係者が指摘しております。

一方で、オーストラリア政府は「中国との経済的な結びつきを維持しつつも、過度な依存から脱却する」バランス外交を模索しております。その象徴的な動きのひとつが、インド・ASEAN・中東との経済連携強化になります。

例えば、2024年に発効したオーストラリア・インド包括経済協定(AI-ECTA)は、インドへの農産物や鉱物資源の輸出拡大に官公一体となって力を入れております。また、UAEやサウジアラビアとの間でも、グリーン水素や再エネ分野でのパートナーシップが進んでいます。

しかし中国リスクからの“逃げ場”はそう簡単ではないようです。例えば、マイニングの世界では依然として中国が豪州の鉄鉱石の8割近くを輸出しております。
オーストラリア随一の鉱山会社BHPやリオ・ティントにとって、中国市場の変調はそのまま決算に響くくらい依然として依存しております。
また最近では、中国の建設投資が鈍化し鉄鉱石価格が一時的に下落し、中国経済の不安定性が、オーストラリア株式市場や経済にも深刻な波紋を与えております。

その他にも教育業界も中国にかなり依存しております。 中国人の留学生の存在がなくては、各学校の経営が成り立たないくらいです。 実際オーストラリアの大学に在籍する外国人留学生のうち、3割以上が中国からの学生になります。中国の若年層失業問題により、親が子の海外留学費を工面できなくなっている現状もあり、結果として、教育機関の財政健全性にも懸念が出始めております。

こうした中で注目されるのが、経済安全保障という新たな視点になります。オーストラリア連邦政府は2025年初頭、重要インフラにおける外国投資の審査基準を一段と強化し、特に、国益&セキュリティーの観点から中国企業による農地・鉱山・港湾への投資には神経を尖らせています。

中国企業がダウィン港(NT)を99年間リースしている問題も、国内で再び議論が沸騰しています。国防上のリスクだけでなく、過去の合意が将来の脅威になり得るという現実が、企業・政府双方に警鐘を鳴らしている。

オーストラリアにとって、中国はパートナーであると同時に、最大の“不確実性”でもあります。この矛盾とどう向き合うか。答えは「脱中国」ではなく、全てを中国にゆだねるのではなく、いい意味での距離感「共存」の必要性が問われています。

企業にとっては、リスク分散を前提とした輸出先の多様化、デジタルやグリーン分野での新市場開拓、そして国内のサプライチェーン強靭化が求められています。政府もまた、資源外交に加え、教育・観光など“人を動かす”ビジネスの多角化支援を強化すべきだと言う声もあります。

「中国とどう付き合うか」は、外交官や政治家だけの世界ではなく、オーストラリアにあるすべての経営者が、自社のビジネスモデルを問い直す出発点として、この問いに向き合うべき時に来ていると言えるでしょう。