オーストラリアはオセアニア大陸に分類され、大陸としては世界最小の部類に属します。そのアセアニアの大半の面積を誇るのがオーストラリアになります。ある意味日本と同様にオーストラリアはぐるりと海に囲まれた海洋国家と言えるでしょう。
広大な面積と海域を保持するオーストラリアは、近年自然の恵みを享受する漁業だけではなく、生み、増やす魚介類養殖業も盛で、国内外で高い評価を受けております。
広大な海域と多様な気候帯を持つこの国は、海洋国家としてのポテンシャルを活かし、持続可能性と高付加価値化を武器に、グローバル市場への進出を加速しております。
1. 養殖=リスク資産から“成長戦略産業”へ
オーストラリアのアクアカルチャー(魚類養殖)は、かつては天然資源に依存した補助的産業に過ぎませんでした。しかし近年、国の農業政策、気候変動対策、そしてアジア市場への輸出成長戦略と結びつくことで、**国家主導の“成長産業”**として注目を集めております。
🔹国内アクアカルチャー産業の生産額:約19億豪ドル(2023年)
🔹養殖が水産業全体に占める割合:約52%(漁獲を上回る)
🔹雇用:直接・間接あわせて約10,000人(地方経済に密接)
特にサーモン、バラマンディ、キングフィッシュの3魚種が収益の柱となっています
- 魚種別に見る「収益構造」と「輸出動向」
■ アトランティックサーモン(タスマニア州)
最大の収益源(約11億AUD)
主な企業:Huon Aquaculture、Tassal、Petuna
海面養殖だが、海底環境とのバランス管理が求められ、ESG観点でも注目されいます
日本・シンガポール・中国への輸出が拡大中
■ バラマンディ(Barramundi)
淡水・汽水両用、成長が早く養殖効率が高い
持続可能性と抗病性が高く、**「次世代の白身魚」**として世界的に注目を浴びております
主要プレイヤー:MainStream Aquaculture、Humpty Doo Barramundi
日本や米国の飲食チェーンと契約を結ぶ事例も増加傾向にあります
■ キングフィッシュ(Yellowtail Kingfish)
高級レストラン・刺身需要に特化
南オーストラリアのClean Seas Seafoodが世界的ブランドを確立
サステナブルで成長性の高い魚種として、日本のブリ市場と並ぶ可能性があります。
- 養殖業の“テクノロジー化”が急加速
スマート・アクアカルチャー(Smart Aquaculture):
センサーによるリアルタイム水質監視
AIによる給餌最適化アルゴリズム
ドローンや水中ロボットによる魚群監視
閉鎖循環式養殖(RAS:Recirculating Aquaculture System):
海ではなく陸上施設で完全に管理された循環型養殖
病気リスクの大幅低減、排水浄化を組み込むことで都市型の持続可能養殖も可能になります
飼料革新:
魚粉代替(例:昆虫由来たんぱく、藻類由来のDHA)
植物性原料によるCO₂排出削減モデル
これらはすべてVC(ベンチャーキャピタル)投資の対象になっており、アクアテックスタートアップへの資金流入が活発。
- 規制・認証・ブランド構築
オーストラリア政府および各州は、厳格な規制とトレーサビリティ制度を設けており、次のような認証を通じて国際的信頼を確保しております。
認証 | 内容 |
ASC認証(Aquaculture Stewardship Council) | 持続可能で社会責任を果たす養殖業者向け |
BAP認証(Best Aquaculture Practices) | 国際輸出向け基準。食品安全・動物福祉・労働慣行など |
オーストラリア政府独自のエコ認証 | 州単位での排水・生態系への影響評価の義務化 |
結果として、オーストラリア産魚介類は**「安心・安全で環境配慮型」**というブランド力を獲得しつつあります。
- ビジネス参入のチャンスとリスク
参入のチャンス:
日本市場との相性が高い魚種(刺身・焼き・フライ用)
現地企業との合弁・ライセンス契約
スタートアップ投資(アクアテック、バイオフィード)
農業×観光=アクアツーリズム分野でも展開可能
留意すべきリスク:
海洋環境の変化(海水温上昇、海洋酸性化)
動物保護・環境団体による社会的監視
為替変動・物流コストの高騰
ライセンス取得・法的コンプライアンスの複雑さ(州によって異なる)
海の未来は、育てる時代へ
水産資源の天然依存が限界に近づくなか、魚を「捕る」時代から、「育てて、売る」時代へとパラダイムが変化しております。オーストラリアの養殖業は、豊かな自然と先進的な技術、厳格なガバナンスを併せ持つ、世界でも稀有なモデルとなっています。
そしてそれは、ただの一次産業ではない。技術、環境、ブランド戦略が交差する、現代型ブルーエコノミーの象徴です。
日本企業にとっても、そこには食文化の融合と未来型ビジネスのヒントが詰まっていると思われます。